序論:新たな政治潮流としての参政党 — ポピュリズムと国家主義の融合
背景と目的
2020年に設立された参政党は、既存の政治力学に挑戦する新たな勢力として急速に台頭した。2022年の参議院議員通常選挙において約176万票を獲得し、国政政党としての地位を確立して以降、地方議会でも着実に議席を伸ばしている 1。この躍進の背景には、長引く経済停滞、既存政党への根強い不信感、そして「反グローバリズム」4 や専門家への懐疑論 6 といった、現代社会に広がる特定の心理的潮流が存在する。同党は、これらの受け皿として支持を拡大してきた。
本レポートの目的は、参政党が掲げる公約と、国政における具体的な活動実績を、客観的なデータと多角的な視点から徹底的に分析・評価することにある。党の公式文書、所属議員の国会活動記録、そして外部の専門家やメディアによる批判的な分析を統合し、その政治的ビジョンが日本の憲法秩序、人権保障、経済社会、そして国益全体にどのような影響を及ぼしうるのかを体系的に明らかにすることを目指す。
分析の枠組み
本分析は、利用者からの要求に基づき、以下の評価軸を設定する。
- 憲法適合性:党の憲法観が日本国憲法の基本原則(国民主権、基本的人権の尊重、平和主義)と整合するか。
- 人権保障:日本国民および外国人居住者の人権をどのように位置づけ、保護するのか。
- 経済・財政政策:中長期的な経済成長、財政規律、国民生活への影響はどのようなものか。
- 社会保障・福祉:福祉国家としての日本の持続可能性をどのように担保するのか。
- 公平性:社会の多様性を尊重し、公正な社会の実現に寄与するか。
- 国益への寄与:総合的に日本の国益を守り、発展させるものか。
これらの評価軸に基づき、参政党の政策が内包する可能性とリスクを専門的見地から厳密に検証し、結論を導出する。
第1部:参政党の基盤分析 — 思想、組織、実績
第1章:設立理念と組織的特徴
1.1 思想的背景 — 「反グローバリズム」と保守主義
参政党の思想的根幹は、強い保守主義と「反グローバリズム」の潮流にある。党の理念として「日本の国益を守り、世界に大調和を創造する」こと、そして三つの綱領の一つに「先人の睿智(えいち)を活かし、天皇を中心として一つにまとまる平和な国を創ります」と掲げている 5。これは、戦後日本が基盤としてきたリベラルな国際協調主義や個人の権利を重視する価値観とは一線を画し、国家の統一性と伝統を最優先する強い国家主義的・保守的色彩を示すものである。
党代表の神谷宗幣氏は、ドナルド・トランプ元米大統領の就任を世界の大きな政策転換点と捉えており 7、その政治スタイルから影響を受けていることを示唆している 3。この点から、参政党の掲げる「反グローバリズム」は、単なる経済政策上の立場に留まらず、国際的な右派ポピュリズムの潮流と共鳴し、国家主権の絶対視や排外主義的な傾向を内包するイデオロギーであることが窺える。
1.2 組織構造 — 「国民参加型」モデルの検証
参政党は自らを「国民参加型政党」と称し、党員と共に政策を創り上げる姿勢を強調している 5。このアプローチは、既存の政党政治から疎外感を感じる有権者にとって魅力的に映る。しかし、その組織構造と党規約を詳細に分析すると、その実態は単純なボトムアップ型の民主主義モデルとは異なる、より複雑な様相を呈している。
党員資格は、月額500円のメールマガジン会員から、月額1,000円の一般党員、そして月額4,000円の「運営党員」まで階層化されている 5。重要なのは、政策立案における投票権や、公認候補者を選ぶ予備選挙での投票権が、最も高額な党費を納める運営党員以上に限定されている点である 5。これは、党の意思決定への実質的な影響力が、党への貢献度(特に金銭的)に応じて配分される仕組みであることを示している。
さらに、党の最高意思決定機関は、代表、副代表、事務局長らで構成される「ボード」であり、代表自身もボードの過半数決議によって選任される 8。この構造は、党の重要な方針や人事が、一部の幹部によって主導されるトップダウン型のガバナンスが機能していることを示唆する。
この組織モデルは、一見すると矛盾しているように見えるが、戦略的な意図が隠されている。広く門戸を開いて多様な参加を促すことで、支持者の裾野を広げ、活動資金を確保する 1。一方で、党の核心的な意思決定は、思想的に純化され、高いコミットメントを持つ中核的な「運営党員」と、それを率いる指導部(ボード)に委ねられている。これにより、党のイデオロギー的な一貫性を保ちつつ、大衆動員力を最大化するという二重の目的を果たしている。したがって、「国民参加型」というスローガンは、全ての党員が平等に政策決定に関与するフラットな民主主義を意味するのではなく、党への帰属意識とコミュニティ感を醸成しながら、指導部の方針を一貫して推進するための、計算された組織戦略と評価できる。
第2章:国政における実績と影響力
2.1 選挙結果と支持層の分析
参政党は、2022年7月の第26回参議院議員通常選挙において、比例代表で約176万票(得票率2%以上)を獲得し、代表の神谷宗幣氏が当選したことで、公職選挙法上の国政政党としての要件を満たした 1。その後、2023年の衆議院議員選挙では3議席を追加し、国会議員の総数は4名(2024年時点)に増加した 1。この結果は、同党が「一発屋政党」との批判を乗り越え、国政に一定の足場を築いたことを示している 2。
JNN(Japan News Network)の調査によると、参政党の支持層には顕著な特徴が見られる。年齢別では若年層ほど支持する比率が高く、また、岸田内閣を「支持しない」と回答した層からの支持が他のどの政党よりも厚い 5。これは、同党が伝統的な保守政党の支持層とは異なる、既存の政治体制全体に強い不満を抱く、新たな有権者層の開拓に成功していることを示唆している。彼らは、リベラルだけでなく、既存の保守政党にも失望した層であり、参政党のラディカルな主張に現状打破の希望を見出していると考えられる。
2.2 国会活動の戦略的活用
少数政党である参政党は、国会という公的な舞台を、自党の政策とイデオロギーを社会に浸透させるための戦略的なプラットフォームとして最大限に活用している。その最も特徴的な手法が、「質問主意書」の多用である。
質問主意書は、国会議員が内閣に対して書面で質問し、政府からの公式な答弁を求める制度である。参政党の所属議員、特に神谷宗幣氏は、この制度を極めて積極的に利用しており、例えば第218回国会(臨時会)だけで157本もの質問主意書を提出している 12。これは、他党の同規模の議員と比較して突出して多い数である。
その質問内容は、党の思想を色濃く反映している。「共産主義及び文化的マルクス主義の浸透と国家制度への影響」「フェンタニルを含む薬物問題及び外国勢力による影響工作」「外国人及び外国系法人による土地取得規制」など、一般的な国会審議では主要な議題となりにくいテーマを意図的に取り上げている 12。
この戦略は、単なる伝統的な意味での立法府による行政府の監視活動に留まらない、高度な情報戦略としての側面を持つ。質問主意書を提出することにより、政府は公式な見解を文書(答弁書)で回答する義務を負う。これにより、参政党が問題視するテーマが、政府答弁とセットで国会の公式記録として永久に保存されることになる 13。
このプロセスは、参政党に複数の戦略的利益をもたらす。第一に、自党の主張に公的な「お墨付き」と正当性を与える。第二に、主流メディアが報じないテーマを公的な議題として可視化する。第三に、得られた質問と答弁のセットは、党のYouTubeチャンネル 14 やSNSといった独自のメディア・エコシステムで拡散するための絶好のコンテンツとなる。支持者に対しては、「我々は国会でこれほど重要な問題を追及しているが、政府ははぐらかした答弁しかしない。真実を語っているのは参政党だけだ」というナラティブを構築し、エンゲージメントを強化する効果がある。このように、参政党にとって国会活動、特に質問主意書は、主流メディアのフィルターを回避し、自らのアジェンダを社会に設定するための極めて有効な武器となっている。
第2部:専門家による政策評価チェックリスト
第3章:国家の根幹 — 憲法観と人権
3.1 憲法観の評価 — 「改正」から「創憲」へ
参政党の国家観を最も先鋭的に示すのが、その憲法に対する姿勢である。同党は、現行憲法の一部を修正する「憲法改正」ではなく、全く新しい憲法を制定する「創憲」を公約として掲げている 15。その具体的なビジョンとして、2025年5月17日に党独自の「新日本国憲法(構想案)」を公表した 16。
この構想案は、日本の戦後体制からの完全な脱却を目指すものであり、その内容は現行憲法の基本原則を根底から覆すものである。
- 天皇の位置づけの変更:構想案の前文は「天皇は、いにしえより国をしらす(統治なさる)こと悠久であり」と始まり、第1条で「天皇は、国民の幸せを祈る神聖な存在として侵してはならない」と規定している 15。これは、天皇を「国民統合の象徴」とする現行憲法から、天皇を統治の主体と位置づけた大日本帝国憲法(明治憲法)への明確な回帰を示唆するものである 15。
- 天皇への国政権能の付与:さらに深刻なのは、天皇に国政上の実質的な権能を与えている点である。構想案第3条では、内閣が提出した法律案などに対し、天皇が一度だけ拒否できる「拒否権」を認めている 16。これは、国権の最高機関である国会(国民の代表)の意思決定を、天皇個人の判断で覆すことを可能にするものであり、国民主権の原則を完全に無効化するものである。
3.2 日本国民の人権 — 「権利」から「権理」へ
参政党の憲法構想案は、人権保障の観点からも重大な問題を提起している。堀新弁護士の分析によれば、現行憲法が保障する基本的人権に関する条項のほとんどが、この構想案では削除されている 16。
- 基本的人権の欠如:現行憲法が詳細に規定する表現の自由(21条)、信教の自由(20条)、学問の自由(23条)、法の下の平等(14条)、拷問の禁止(36条)、適正手続の保障(31条)といった、近代民主主義国家の根幹をなす人権規定がほぼ見当たらない 16。
- 「権利」から「権理」への転換:構想案には、わずかに「主体的に生きる自由」(8条1項)や「生存権」(8条2項)などが記されているが、そこでは「権利」ではなく「権理」という言葉が用いられている 16。これは単なる言葉の違いではない。「権利 (right)」が個人に固有の、国家に先立つ普遍的で不可侵なものとされるのに対し、「権理」は国家や公の秩序の中から認められ、与えられる恩恵的なものと解釈される余地がある。
この構想案が示す世界観は、戦後日本の立憲主義からの根本的な決別を意味する。それは、国家が個人の不可侵の権利を守るために存在するという「権利基盤の国家観」から、個人が特定の「国柄」や共同体への忠誠と義務を果たすことを前提として、国家から限定的な自由(権理)を与えられるという「義務基盤の国家観」への転換である。このパラダイムシフトは、国家と個人の関係性を逆転させ、個人の尊厳よりも国家の意思を優先する全体主義的な体制への道を開く危険性を内包している。
3.3 外国人の人権 — 「日本人ファースト」の法的帰結
参政党の政策の基軸である「日本人ファースト」18 は、外国人および日本に帰化した人々に対する政策に最も明確に表れている。党は「外国人総合政策庁」の設置を掲げ、外国人に関する包括的な管理強化を目指す 20。具体的には、帰化および永住権の要件厳格化、実質的な移民政策と見なす特定技能制度の見直し、外国人への生活保護支給の停止、外国人参政権の明確な禁止などを公約としている 20。
これらの政策は、憲法構想案においてさらに先鋭化する。構想案第19条4項は、日本に帰化した国民について、「その孫の世代まで公務就任を認めず、曾孫の世代で初めて公務就任が可能となる」と規定している 16。これは、国籍法上は完全な日本国民であるにもかかわらず、その出自(血筋)を理由に、三世代にわたって公務員や国会議員になる権利を剥奪するという、明確な差別規定である。これは、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めた憲法第14条「法の下の平等」の原則に真っ向から違反する。
この構想案の背後にある論理は、日本という国家を、法の支配に基づく普遍的な市民の共同体としてではなく、特定の血統と文化を共有する民族共同体として捉える思想である。この思想に基づけば、帰化した国民は、法的には日本人であっても、本質的には「異分子」であり、国家の中枢から排除すべき対象と見なされる。参政党の政策は、日本社会の多様性を否定し、国民の間に深刻な分断と差別をもたらすことで、日本の社会的結束を内側から破壊するリスクを孕んでいる 3。
第4章:経済・財政政策の妥当性評価
4.1 成長戦略の検証 — 年率4%成長のリアリズム
参政党は、日本の長期的な経済停滞を打破するための処方箋として、野心的な経済成長目標を掲げている。具体的には、名目GDP成長率で年率4%の実現を目指すとしている 20。これは、近年の日本の成長実績(0〜1%台)を大幅に上回る目標であり、その実現可能性は慎重な検証を要する。
この目標達成の手段として、党は財政政策の抜本的な転換を主張する。政府の財政健全化目標であるプライマリーバランス(PB)黒字化目標を撤回し、大規模な国債発行による積極財政を通じて、国内の需要を喚起し、経済を成長軌道に乗せるという戦略である 18。このアプローチは、自国通貨建てで国債を発行する政府は財政破綻しないとする「現代貨幣理論(MMT)」と強い親和性を持つと指摘されている 24。神谷代表も「GDPが成長していないところに問題がある」と述べ、財政赤字よりも経済成長を優先する姿勢を明確にしている 26。
4.2 財政方針の評価(国債 vs 緊縮)— 積極財政のリスク
参政党の積極財政路線は、メリットとデメリットを併せ持つ。
- メリット:政府が財政支出を拡大することで、公共事業や教育・科学技術への投資を増やし、日本の潜在成長率を引き上げる可能性がある。また、国民への直接的な給付金は、短期的な消費刺激効果を通じて、デフレからの完全脱却を後押しするかもしれない。
- デメリット:最大のリスクは、その財源のほぼ全てを国債発行に依存している点にある 22。例えば、後述する「0〜15歳に月10万円給付」のような大規模な政策を実現するためには、年間数十兆円規模の新たな国債発行が必要となる。日本の政府債務残高は既に対GDP比で250%を超え、先進国で最悪の水準にある。このような状況で財政規律を完全に放棄し、国債発行を無制限に拡大すれば、国内外の投資家から日本国債の信認が失われるリスクがある。その結果、金利が急騰して政府の利払い費が膨張したり、円の価値が暴落して制御不能なハイパーインフレーションを引き起こしたりする可能性がある。経済成長が想定通りに進まなかった場合の具体的なリスク管理策は、党の政策からは読み取れない。
参政党の経済政策には、その根幹に重大な自己矛盾が存在する。大規模な積極財政を維持するためには、日本国債と日本円に対する国際金融市場からの安定した信認が不可欠である。つまり、海外投資家が安心して日本国債を買い支え、円を保有し続けることが大前提となる。しかし、党の基本理念である「反グローバリズム」4 や「日本人ファースト」18 は、この前提と真っ向から対立する。
外国人による土地取得の規制強化 20、移民受け入れへの強硬な反対姿勢、国際機関への懐疑的な態度といった内向きで排外主義的な政策は、海外からの投資や協力を阻害し、日本を国際社会から孤立させる方向に作用する。もし参政党が政権を担い、こうした政策を実際に推し進めれば、海外投資家は日本の政治的・経済的リスクの高まりを懸念し、日本国債や円を売却する可能性がある。そうなれば金利は急騰し、円安は加速し、積極財政の基盤そのものが崩壊する。つまり、経済を再生させるための「積極財政」というエンジンと、党のイデオロギーである「反グローバル国家主義」というブレーキを同時に踏み込もうとするものであり、その政策は構造的な矛盾の上に成り立っていると言わざるを得ない。
4.3 税制改革と国民生活への影響
参政党は、国民の可処分所得を増やすための具体的な税制改革案を提示している。その柱は、「消費税の段階的廃止」「国民負担率(租税負担+社会保険料負担)の35%上限設定」「インボイス制度の即時撤回」である 20。
これらの公約は、実現すれば国民生活、特に低所得者層や小規模事業者、フリーランスに直接的な恩恵をもたらす可能性がある。消費税の負担がなくなれば物価は実質的に下落し、インボイス制度の廃止は多くの事業者の事務負担と納税負担を軽減する。国民負担率に上限を設けるという考え方も、政府の際限ない増税路線に歯止めをかけるという点で、多くの国民から支持を得やすいだろう。
しかし、これらの減税策の財源は極めて不透明である。消費税は、現在では年間20兆円を超える国の基幹税であり、その税収は主に社会保障制度を支えている。これを廃止した場合、代替財源を確保しなければ、年金、医療、介護といった社会保障サービスは崩壊の危機に瀕する。党は、積極財政による経済成長が全ての財源を賄うと主張するが 18、前述の通りその実現性には大きな疑問符がつき、極めて楽観的な見通しに依存した危険な賭けであると言える。
第5章:国民生活と社会保障の将来性
5.1 福祉・社会保障 — 給付と負担のアンバランス
参政党の社会保障政策は、手厚い給付を約束する一方で、その負担と持続可能性については深刻な問題を抱えている。
- 子育て支援:政策の目玉として、0歳から15歳までの子供一人あたり月額10万円の「子育て教育給付金」を掲げている 20。日本の同学齢の人口(約1,400万人)を基に試算すると、この政策の実現には年間で約16.8兆円という莫大な財源が必要となる。これは日本の防衛費(2024年度予算で約6.8兆円)の2倍以上、社会保障関係費全体の約45%に相当する規模であり、現実的な財源の確保は極めて困難である。党は「教育国債」の発行を財源とするとしているが 20、これは事実上、将来世代に巨額の借金を先送りするに他ならない。
- 医療政策:現在の対症療法中心の医療から、病気を未然に防ぐ「予防医療」への転換を主張している 20。この理念自体は評価できるものの、その具体策には大きな倫理的問題が含まれる。党は医療費抑制策の一環として、「終末期における過度な延命治療に高額医療費をかけることは(中略)原則行わない」「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」を掲げている 20。この政策は、所得の多寡によって受けられる終末期医療に差をつけるものであり、経済的に困窮している人々から尊厳ある死を迎える選択肢を奪いかねない。「生命の選別」につながるという厳しい批判は免れないだろう 27。
- 介護政策:介護保険制度に関する具体的な公約は乏しく、アンケートへの回答も見送られている 28。党の政策集では、「コミュニティ型福祉の充実」や「トークンの発行で福祉サービスを賄う仕組みを導入」といった抽象的な言及に留まっており 29、高齢化が急速に進む中での持続可能な介護制度のビジョンは示されていない。
5.2 教育政策 — 伝統回帰と現代社会
参政党の教育政策は、現代的な課題への目配りと、戦前への強い回帰志向という二面性を持つ。一方では、偏差値重視の画一的な教育からの脱却、フリースクールなど多様な教育環境の整備推進といった、現代の教育課題に対応する姿勢を見せている 30。
しかし、その核心は、日本の伝統や歴史、愛国心を重視する教育への回帰にある。具体的には、戦前の道徳教育であった「修身」や、天皇が国民に下した言葉である「教育勅語」の精神を尊重し、学校教育で日本の神話や偉人の功績を教えるべきだと主張している 5。これは、教育基本法が定める教育の政治的中立性を損ない、特定の歴史観や価値観を子供たちに押し付けることにつながる危険性がある。学習指導要領との整合性も問われ、教育現場に大きな混乱をもたらす可能性がある。
5.3 公平性の検証 — 分断を助長するリスク
参政党の政策全体を貫く「日本人ファースト」の理念は、社会の公平性を著しく損ない、分断を助長するリスクを内包している。外国人や日本に帰化した人々に対しては、権利の制限や社会サービスからの排除を明確に打ち出しており 16、これは多文化共生を目指す現代社会の潮流に逆行するものである。
また、終末期医療の自己負担化のように、経済力によって生命の価値が左右されかねない政策は、富裕層と貧困層の間に決定的な格差を生み出す。これらの政策は、国民を「真の日本人」と「それ以外」、あるいは「富める者」と「貧しい者」に分断し、社会全体の結束を弱める方向に作用する可能性が高い。
結論:参政党の総合評価と日本の国益への寄与
チェックリストに基づく総括
本レポートで実施した多角的な分析を、以下のチェックリストに集約する。各項目は5段階で評価し(1が最低、5が最高)、その根拠を要約する。
評価項目 (Evaluation Criteria) |
参政党の具体的公約・主張 (Specific Sanseito Policy/Claim) |
根拠資料 (Evidence Sources) |
ポジティブ評価(可能性)(Positive Evaluation / Potential) |
ネガティブ評価(リスク・課題)(Negative Evaluation / Risks & Challenges) |
総合評価 (Composite Score, 1-5, 1=Very Low) |
憲法適合性 (Constitutionality) |
「創憲」案:天皇の国政権能強化、統治権の明記 |
15 |
国家の理念・「国柄」の明確化を意図。 |
国民主権、象徴天皇制など現行憲法の基本原則を完全に否定。立憲主義の崩壊。 |
1 |
日本国民の人権 (Human Rights – Japanese Citizens) |
憲法草案における基本的人権条項の多数削除。「権利」を「権理」と表記。 |
16 |
(党の主張する意図は見当たらない) |
表現・思想の自由、法の下の平等など、近代民主主義国家の基盤となる人権保障が失われる。 |
1 |
外国人の人権 (Human Rights – Foreigners) |
帰化三世まで公務就任を制限。外国人への生活保護停止、在留資格厳格化。 |
16 |
(党主張:外国勢力の浸透阻止、国益保護) |
憲法14条違反の明確な出自差別。国際人権規約違反。排外主義の助長。 |
1 |
中長期的経済成長 (Long-term Economic Growth) |
名目GDP成長率4%目標。積極財政による内需主導型成長。 |
18 |
長期デフレからの脱却、国内投資の活性化。 |
反グローバリズム政策が貿易・投資を阻害。財政信認の低下が成長基盤を破壊するリスク。 |
2 |
財政規律 (Fiscal Discipline) |
PB黒字化目標の撤回。国債発行による財源調達(財政法4条改正も示唆)。 |
22 |
財政制約に縛られない機動的な経済政策が可能になる。 |
制御不能なインフレ、金利急騰、将来世代への過剰な負担。財政破綻リスクの増大。 |
1 |
国民生活の向上 (Improvement of Citizen’s Lives) |
0-15歳に月10万円給付。消費税廃止。国民負担率35%上限。 |
20 |
短期的に可処分所得が大幅に増加し、生活水準が向上する。 |
財源がなく持続不可能。将来の増税や社会保障削減に繋がり、長期的には生活を圧迫する。 |
2 |
福祉の持続可能性 (Welfare Sustainability) |
終末期延命医療費の全額自己負担化。予防医療への転換。 |
20 |
医療費の総額抑制に繋がる可能性がある。 |
生命の選別という倫理的問題。所得による医療格差の深刻化。社会保障の普遍性の放棄。 |
1 |
公平性 (Fairness) |
「日本人ファースト」を基軸とし、外国人・帰化人を明確に区別。 |
18 |
(党支持者の一体感・満足度の向上) |
国民間に分断と差別を生み出す。社会的結束を著しく損なう。 |
1 |
日本の国益 (National Interest) |
防衛費GDP比3%目標。スパイ防止法制定。食料自給率100%目標。 |
5 |
安全保障の自律性向上、経済安全保障の強化。 |
国際的孤立、労働力不足による経済停滞、過度な財政負担。総合的な国力低下のリスク。 |
2 |
ラディカルな現状変革のビジョン
参政党は、日本の経済的停滞や社会の閉塞感に対し、既存政党が提示し得なかったラディカルな処方箋を提示することで支持を拡大している。大規模な財政出動、国民への大型給付、大胆な減税といったポピュリスティックな経済政策は、現状に強い不満を抱く層にとって魅力的に映る。この点で、同党は既存政治への不満の受け皿として、一定の社会的機能を果たしている側面がある。
立憲主義と人権への深刻な挑戦
しかし、その政策の根底に流れる思想は、戦後日本が70年以上にわたって築き上げてきた立憲民主主義と人権保障の枠組みに対する、極めて深刻な挑戦である。党が提示する「創憲」案は、国民主権を形骸化させ、天皇を政治利用し、基本的人権を国家の都合で制限しうる道を開くものである。特に、出自による差別を制度化する提案は、近代国家の基本原則である「法の下の平等」を根本から否定するものであり、到底容認できるものではない。
経済政策の持続不可能性と矛盾
経済政策は、短期的には国民に利益をもたらすかのような幻想を与えるが、その財源計画は極めて脆弱であり、長期的な財政破綻やハイパーインフレーションという破滅的なリスクを度外視している。さらに、グローバルな信認を必要とする積極財政と、内向きで排外主義的な国家観との間には、解消不可能な自己矛盾が存在する。
国益の観点からの最終評価
結論として、参政党の掲げる政策は、一部で国民生活の向上に資する要素を提示しつつも、全体として日本の立憲主義、人権保障、財政の持続可能性、そして国際社会における信頼という、国益の根幹を著しく損なうリスクが極めて高いと評価される。同党が描くビジョンは、日本の未来を豊かにするものではなく、むしろ社会の分断を深刻化させ、国内外に計り知れない混乱をもたらす可能性を内包している。したがって、その主張と政策に対しては、最大限の警戒と批判的な検証が継続的に必要である。
引用文献
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- 壊れゆく日本を守るため、日本人ファーストの政治家を1人でも多く国会に送り込みたい! | 参政党 – コングラント, 8月 21, 2025にアクセス、 https://congrant.com/project/sanseito/17367
- 参政党在日本选举异军突起反映民意右倾 – Swissinfo, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.swissinfo.ch/chi/%E5%8F%82%E6%94%BF%E5%85%9A%E5%9C%A8%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%80%89%E4%B8%BE%E5%BC%82%E5%86%9B%E7%AA%81%E8%B5%B7-%E5%8F%8D%E6%98%A0%E6%B0%91%E6%84%8F%E5%8F%B3%E5%80%BE/89716841
- 参政党 -sanseito-, 8月 21, 2025にアクセス、 https://sanseito.jp/
- 参政党- 维基百科,自由的百科全书, 8月 21, 2025にアクセス、 https://zh.wikipedia.org/zh-cn/%E5%8F%82%E6%94%BF%E5%85%9A
- 【與那覇潤が斬る参政党現象】「専門家は間違えない」という神話はすでに崩壊…戦後と震災後の反省を思い出せ – JBpress, 8月 21, 2025にアクセス、 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/90054
- 参政党埼玉県支部連合会 |, 8月 21, 2025にアクセス、 https://sanseito-saitama.jp/
- sanseito- | 参政党とは? – 参政党, 8月 21, 2025にアクセス、 https://sanseito.jp/about/
- メンバー紹介 | 参政党, 8月 21, 2025にアクセス、 https://sanseito.jp/member/
- 参政党の国会議員5人に 政党要件を満たす【知っておきたい!】【グッド!モーニング】(2025年7月1日) – YouTube, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=yztxc2heirQ
- 会派別議員一覧(参政党) – 衆議院, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/syu/090kaiha.htm
- 国会活動まとめ | 参政党, 8月 21, 2025にアクセス、 https://sanseito.jp/diet_activity/
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- 参政党 – YouTube, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/@sanseito-official
- 主張/参政党創憲案/日本を戦前に戻していいのか, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.jcp.or.jp/akahata/aik25/2025-07-12/2025071202_01_0.html
- 参政党「憲法草案」の問題点とは? “まるで怪文書”の声も…弁護士が …, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.ben54.jp/news/2488
- 参政党「新日本憲法」は日本の未来をどう開くか?前編〜筋肉弁護士桜井ヤスノリVS参政党弁護士安達悠司【赤坂ニュース283】 – YouTube, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=8ewKD_Bcgxs
- 【参院選2025 選挙公約】参政党 神谷宗幣 代表がプレゼン(主催:ニコニコ) – YouTube, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=oCU2vA9w76o&pp=0gcJCf8Ao7VqN5tD
- 参議院選挙参政党公約一覧集 – 望月まさのり(モチヅキマサノリ) – 選挙ドットコム, 8月 21, 2025にアクセス、 https://go2senkyo.com/seijika/191999/posts/1153306
- 参政党の政策カタログ一覧, 8月 21, 2025にアクセス、 https://sanseito.jp/political_measures_2025/specific_policies/
- 豊かさ上昇曲線の “経済づくり” (令和の所得倍増戦略を実現する) – 参政党, 8月 21, 2025にアクセス、 https://sanseito.jp/hashira03/
- 特異と補完 参政党の公約(上)/極端な国債依存 命の沙汰も – 日本共産党, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.jcp.or.jp/akahata/aik25/2025-07-11/2025071102_04_0.html
- “空前のバラマキ合戦”となった参院選 主要政党の 「財政公約」を検証する, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.jri.co.jp/file/report/other/pdf/15973.pdf
- 「参政党支持者は情弱」と叩く人もいるが…批判されるほど元気になる参政党支持者に共通する“強すぎる被害者意識”の正体(ダイヤモンド・オンライン) – Yahoo!ファイナンス, 8月 21, 2025にアクセス、 https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/31c386d6f274dea0f5d19057a9496d6bec430360
- MMT「インフレ制御不能」批判がありえない理由 「自民党の一部」が支持の動き、国会でも論議, 8月 21, 2025にアクセス、 https://toyokeizai.net/articles/-/283186
- 参政党・神谷代表 日本国債の発行に「やりようはいくらでもある」【参議院選挙2025】 – YouTube, 8月 21, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=RhxMTI-6woM
- 参政党の医療公約「終末期の延命医療費の全額自己負担化」医療政策学者と検証する, 8月 21, 2025にアクセス、 https://naokoiwanaga.theletter.jp/posts/bb6a15e0-5d48-11f0-b934-d5909184ce54
- 参院選も「介護を争点に」 ケア社会をつくる会ら 各党に質問状、回答を公表 – シルバー新報, 8月 21, 2025にアクセス、 https://silver-news.com/blog/detail/2692
- 国民に健康と食の価値、 元気な超高齢社会で “安心できる生活づくり” – 参政党, 8月 21, 2025にアクセス、 https://sanseito.jp/hashira02/
- 参政党 統一地方選の公約 | 参政党, 8月 21, 2025にアクセス、 https://sanseito.jp/localelection/
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