詐欺メールの分析:存在しない宝くじ詐欺の例(幼稚だが気をつけましょう)

エグゼクティブ・サマリー:明確な判定と主要な所見

本報告書は、提供されたメールとそのヘッダー情報を詳細に分析した結果をまとめたものです。法医学的観点からの分析に基づき、このメールは悪意のある、疑いの余地のない詐欺行為であると断定します。具体的には、存在しない宝くじの賞金を受け取るために、被害者に一連の架空の手数料を支払わせることを目的とした典型的な**「前払い金詐欺(Advance-Fee Fraud)」**に分類されます。

この結論は、以下の複数の独立した証拠の柱によって裏付けられています。

  1. 技術的証拠:メールヘッダーの分析により、送信元認証プロトコル(SPF、DKIM)が完全に失敗しており、送信元IPアドレスが偽装された送信者とは無関係のデータセンターであることが判明しました。
  2. 送信者情報の偽装:送信者として表示されている日本の正規企業(株式会社諏訪田製作所)は、宝くじ事業とは一切関係がなく、そのドメインが悪用されています。返信先には、匿名性が高く犯罪に悪用されやすいフリーメールアドレスが指定されています。
  3. 欺瞞的なコンテンツ:メール本文の内容は、正規の宝くじ運営団体の公式な手続きとは著しく矛盾しており、受信者の感情を煽り、論理的思考を妨げるよう設計された心理的戦術が多用されています。

以下の要約表は、本メールに内在する危険信号(レッドフラグ)をまとめたものです。

表1:危険信号(レッドフラグ)分析サマリー

分析項目

観測結果

判定と示唆

送信元アドレス (From)

megalottoprizedept@suwada.co.jp

高度な偽装:ドメインは日本の正規企業「株式会社諏訪田製作所」のものであり、宝くじとは無関係。明確なドメインスプーフィング(なりすまし)である 1

返信先アドレス (Reply-To)

jacobslawservicescalifonia@protonmail.com

詐欺的:匿名性の高い暗号化フリーメール(ProtonMail)の使用は、犯罪者が身元を隠すための典型的な手口。”California”のスペルミス(”califonia”)は、非専門的で低品質な詐欺の特徴を示す。

送信元IPアドレス

172.245.244.82 (ColoCrossing, 米国)

不正な送信元:メールは、諏訪田製作所や公式な宝くじ団体とは無関係の、米国の汎用データセンターサーバーから送信されている。この種のサーバーは、スパムや悪意のあるキャンペーンに頻繁に利用される 3

メール認証

spf=softfail, dkim=none, dmarc=none

信頼性の致命的な欠如:標準的なメール認証プロトコル(SPF, DKIM, DMARC)がすべて失敗している。これは、送信者の身元が偽造され、メールがsuwada.co.jpドメインから無許可で送信されたことを示す決定的な技術的証拠である。

スパムフィルタースコア

score=21.4 (高スコア)

自動的な断罪:高性能なスパムフィルターが、既知の詐欺スキーム(例:ADVANCE_FEE_5_NEW_MONEY, FORM_FRAUD_5, LOTTO_AGENT)と一致する多数のパターンを自動的に検出し、その悪意のある性質を裏付けている。

メール本文

受信者が応募したことのない宝くじの当選を通知する、一方的な内容。

古典的な詐欺の前提:正規の宝くじはチケットの購入が必須であり、一方的なメールで当選を通知することはない。この前提自体が、数多くの宝くじ詐欺の根幹をなしている 4

行動喚起 (Call to Action)

匿名のフリーメールアドレスを介して「法律代理人」に連絡するよう指示。

詐欺への誘導:追跡可能なメールシステムから、監視の目が届かない私的で匿名なチャネルへと対話を移行させ、詐欺師が被害者を操作しやすくするための策略である。

物理的住所

1321 Garden Highway, Suite 101, Sacramento, CA

欺瞞的な流用:住所は実在するが、全く無関係の非営利団体「Sierra Health Foundation」のものである。これは、表面的なオンライン検索に耐えうる「正当性の見せかけ」を作り出すための手口である 6

総じて、このメールは受信者を金銭的損失および個人情報の窃取という重大なリスクに晒す、巧妙に仕組まれた詐欺です。

技術的詳細分析:メールヘッダー内の反論不能な証拠

メールヘッダーは、通信のデジタルな指紋であり、その出自と信憑性を検証するための客観的なデータを含んでいます。本セクションでは、ヘッダー情報を法医学的に分析し、このメールが技術的に見て正当な送信元からのものではないことを、反論の余地なく証明します。

偽造された身分証明書:送信者認証の失敗 (SPF, DKIM, DMARC)

現代のメールシステムは、送信者の身元を検証するために、パスポートコントロールシステムに似た認証プロトコルの「三位一体」を利用します。このメールは、これらすべての認証テストに失敗しています。

  • SPF (Sender Policy Framework) の分析:ヘッダーにはspf=softfail (sv14881.xserver.jp: 172.245.244.82 is neither permitted nor denied by domain of megalottoprizedept@suwada.co.jp)と記録されています。これは、suwada.co.jpドメインの所有者が、IPアドレス172.245.244.82を持つサーバーから自ドメイン名義でメールを送信することを許可していないことを明確に示しています。softfailという結果は、偽装の強い疑いがあることを意味し、受信サーバーに対して慎重な取り扱いを促す警告です。
  • DKIM (DomainKeys Identified Mail) の分析:ヘッダーにはdkim=noneと表示されています。これは、メールに暗号化署名が添付されていないことを意味します。DKIM署名は、メールが確かに送信元ドメインから送られ、配送中に改ざんされていないことを証明する役割を果たします。公式な通信を装うメールにおいて、この署名が欠如していることは、極めて重大な危険信号です。
  • DMARC (Domain-based Message Authentication, Reporting & Conformance) の分析:ヘッダーにはdmarc=noneとあります。DMARCは、SPFやDKIMの認証に失敗したメールをどのように処理すべきか(例:隔離、拒否)を受信サーバーに指示するポリシーです。このメールの場合、suwada.co.jpドメイン側にDMARCポリシーが設定されていなかったため、この明白な偽装メールが受信者のメールボックスに直接配信されることを許してしまいました。

デジタルフットプリントの追跡:Receivedヘッダーと送信元IPアドレスの分析

Receivedヘッダーは、メールが送信者から受信者に届くまでの経路を記録したデジタルな消印の連続です。この経路を遡ることで、メールの真の送信元を特定できます。

  • 送信元IPアドレスの特定:最も重要な行はReceived: from 172-245-244-82-host.colocrossing.com (unknown [172.245.244.82])です。これにより、メールの実際の送信元サーバーのIPアドレスが172.245.244.82であることが判明します。
  • WHOIS情報による送信元特定:このIPアドレスを調査すると、米国のホスティング・データセンター事業者であるColoCrossing社に割り当てられていることが確認できます 3。これは、日本の工具メーカーや米国の宝くじ運営団体の企業サーバーではありません。さらに、
    172-245-244-82-host.colocrossing.comという逆引きホスト名は、特定の企業に割り当てられたものではなく、安価な汎用サーバーであることを示唆しており、これはスパムキャンペーンの送信元として典型的な特徴です。

この分析から、メールの送信元はsuwada.co.jpではなく、詐欺目的で契約された米国の匿名サーバーであることが技術的に証明されます。SPFの認証失敗は、このColoCrossing社のサーバーがsuwada.co.jpを名乗る権限がないことを直接裏付けており、これら二つの技術的証拠は互いに補強しあっています。

自動化された告発:X-Spam-Statusレポートの解読

受信者のメールサーバーは、SpamAssassinという強力なスパムフィルターを使用してこのメールを評価しました。その結果はX-Spam-Statusヘッダーに記録されており、内容は詐欺行為に対する自動化された告発状に等しいものです。

  • スコア分析:このメールはscore=21.4という非常に高いスパムスコアを記録しました。サーバーの設定では30.0が即時拒否の閾値であったため受信はされましたが、21.4というスコアは、メールがスパムまたは詐欺であるという極めて高い確信度を示しています。
  • 検出されたテストフラグの内訳:SpamAssassinは、以下の詐欺に典型的な特徴を多数検出しました。
  • ADVANCE_FEE_5_NEW_MONEY, MONEY_FRAUD_8:メールが典型的な前払い金詐欺のパターンを含んでいることを直接指摘しています。
  • FREEMAIL_FORGED_REPLYTO, MONEY_FREEMAIL_REPTO:送信元(From)が企業ドメインであるにもかかわらず、返信先(Reply-To)にフリーメールアドレス(protonmail.com)が設定されているという、典型的な詐欺の手口を検出しています。
  • HK_LOTTO, LOTTO_AGENT, UNCLAIMED_MONEY:宝くじ詐欺で頻繁に使用されるキーワードやフレーズを検出しています。
  • RDNS_NONE, HELO_DYNAMIC_IPADDR2:送信元サーバーが正しく設定されていない、または正規のメール送信には通常使用されないネットワークに属していることを示す技術的なフラグであり、IPアドレス分析の結果を補強します。
  • SPF_SOFTFAIL:前述のSPF認証の失敗を再確認しています。
  • SUBJ_ALL_CAPS:件名がすべて大文字で書かれており、注意を引き、偽の緊急性を煽るための一般的なスパムの手法です。

これらの技術的証拠は、それぞれが独立して詐欺の可能性を示唆するだけでなく、相互に連携して偽装の全体像を明らかにします。送信元IPアドレス、認証の失敗、そしてスパムフィルターの分析結果は、すべて同じ結論、すなわち「このメールは悪意を持って偽装された詐欺である」という一点を指し示しています。

正当性の偽装:送信者および連絡先情報の解体

詐欺師は、技術的な偽装に加えて、受信者を信用させるために実在の組織名や情報を悪用し、正当性の見せかけを作り出します。本セクションでは、詐欺師が構築した偽りのファサードを解体し、その欺瞞的な手口を明らかにします。

意図せざる共犯者:suwada.co.jpの偽装

詐欺師が送信元ドメインとしてsuwada.co.jpを選んだのは偶然ではありません。この選択の背後には、計算された意図があります。

  • 株式会社諏訪田製作所の実態:調査によると、株式会社諏訪田製作所は1926年に創業された、新潟県三条市に拠点を置く高名な刃物メーカーです 1。主力製品は高級ニッパー型爪切りや盆栽用具であり、その事業内容は国際的な宝くじとは全く無関係です 9
  • 偽装の意図:詐欺師がこのドメインを選んだ理由は二つ考えられます。第一に、受信者が日本の企業(dream-soft.co.jp)であるため、同じ.co.jpドメインを使用することで、ローカルな信頼性を演出しようとした可能性があります。第二に、同社のような製造業の中小企業は、自ドメインからのなりすましを厳格にブロックするDMARCポリシー(p=reject)を導入していない場合が多く、詐欺師にとって格好の標的となった可能性があります。

使い捨ての連絡先:匿名性と誤字の分析

詐欺師は、自身の身元を隠蔽するために、追跡が困難な匿名の連絡先を使用します。

  • 返信先アドレスの分析:jacobslawservicescalifonia@protonmail.comというアドレスは、詐欺の決定的な証拠です。
  • ProtonMailの利用:ProtonMailは、通信内容がエンドツーエンドで暗号化される、プライバシー保護を重視したメールサービスです。その匿名性の高さから、犯罪者が法執行機関による追跡を逃れるために頻繁に悪用します。
  • スペルミス:”California”を”califonia”と誤記している点は、詐欺師の杜撰さを示す重要な手がかりです。正規の法律事務所が、自らの所在地をこれほど基本的なレベルで間違えることはあり得ません。これは、非ネイティブの英語話者による、低品質な詐欺オペレーションであることを強く示唆しています。
  • Ccアドレスの分析:Ccに含まれるamericaprizefundsrelease@zohomail.euも同様に、詐欺目的で作成された使い捨てのアドレスです。Zoho Mailも正規のサービスですが、フリープランが詐欺に悪用されることがあります。.euという欧州のドメインを使用することで、無駄に国際的な要素を加え、受信者を混乱させる意図も見て取れます。

架空の組織:宝くじ事業体の捏造

詐欺師は、実在する宝くじの知名度を利用して、もっともらしい架空の組織を捏造しています。メール本文では、「LOTTO AMERICA & MEGA MILLIONS INTERNATIONAL LOTTERY」という名称が使われています。これは、米国で実際に運営されている「Mega Millions」と「Lotto America」という二つの有名な宝くじの名前を組み合わせたものです 4。この手口は、受信者が名前の一部を知っていることで、組織全体が実在するかのような錯覚に陥らせることを狙っています。

このように、詐欺師は実在する企業ドメイン、実在する宝くじの名称、そして後述する実在の住所といった「検証可能な情報」と、匿名のフリーメールやスペルミスといった「詐欺的な情報」を巧みに織り交ぜています。この「正当性の見せかけ」戦略は、受信者が最初の数点の情報で安心し、決定的な危険信号を見逃すことを期待した、計算された心理的戦術なのです。

誘惑の手法:メール本文の心理的・言語的分析

このメールの本文は、単なる情報の羅列ではなく、受信者の心理を巧みに操り、非合理的な行動へと誘導するために慎重に構成された文章です。本セクションでは、その言語的特徴と心理的トリガーを分析し、正規の宝くじの運営方法と比較することで、その欺瞞性を明らかにします。

あり得ない前提 vs. 公式な宝くじの規定

詐欺の根幹は、その非現実的な前提にあります。

  • 詐欺の主張:メールは、受信者がチケットを購入していないにもかかわらず、「メールアドレスのランダムコンピュータ抽選システム」によって選ばれたと主張しています。
  • 公式な現実:Mega MillionsやLotto Americaを含むすべての正規の宝くじは、参加者が自らの意思でチケットを購入することを前提とした確率ゲームです 11。当選者がメールアドレスのリストからランダムに選ばれることは絶対にありません。公式な宝くじ団体や規制当局は、「チケットを買わなければ、当選することはない」と繰り返し警告しています 4。また、当選の通知は、当選者自身が当選番号を確認し、公式な手続き(宝くじ販売店や指定の請求センターでのチケット提示など)を開始することによって行われます。運営側から一方的にメールで当選を通知することは、原則としてありません 14

「正当性の証拠」の悪用:実在する物理的住所の流用

詐欺師は、信憑性を高めるために実在の住所を悪用しています。

  • 詐欺の主張:メールには、送信元の住所として1321 Garden Highway, Suite 101, Sacramento, CA 95833が記載されています。
  • 現実:この住所は実在しますが、その所在地にあるのはSierra Health Foundationという、健康と人種的公平性の向上を目的とする慈善団体です 6。この団体は宝くじ事業とは一切関係ありません 17。これは、受信者がGoogleマップなどで住所を検索した場合に、実在する場所であることが確認できるように仕組んだ巧妙な罠です。詐欺師は、受信者が住所の存在を確認するだけで満足し、その場所に「誰がいるのか」までは調査しないことを見越しています。

「クリック」を誘発する戦術:緊急性、興奮、権威の演出

メールの文面には、受信者の冷静な判断力を奪うための心理的戦術が散りばめられています。

  • 感情的な興奮の創出:「absolutely thrilled(非常に興奮している)」「exciting news(エキサイティングなニュース)」「life-changing win(人生を変える勝利)」といった言葉を多用し、$1,200,000.00 USDという巨額の賞金額を提示することで、受信者の欲や興奮といった強い感情を刺激します。このような感情的な高揚状態は、論理的な思考や懐疑的な態度を抑制する効果があります。
  • 偽の権威の演出:「PRESIDENT(会長)」という肩書を持つCAROLINE GRACEという架空の人物や、「Legal Representative Dr. Jacobs Legal Firms(法律代理人ジェイコブス法律事務所)」といった存在に言及することで、公式で権威ある組織からの通知であるかのように見せかけています。
  • 作り出された緊急性:「all winnings must be claimed no later than October 03, 2025(すべての賞金は2025年10月3日までに請求されなければならない)」という請求期限を設定することは、典型的な高圧的セールス戦術です。これにより、受信者に「今すぐ行動しないと、この絶好の機会を逃してしまう」という恐怖感(FOMO: Fear of Missing Out)を植え付け、じっくり考えたり、誰かに相談したりする時間を与えずに、衝動的な行動(=詐欺師への連絡)を促します。
  • もっともらしい言い訳:「names,Email and addresses of various participants(様々な参加者の名前、メール、住所)に関する混同」が原因で結果発表が遅れた、というストーリーは、この通知が通常の手順と異なる理由をあらかじめ説明するための社会工学的戦術です。これにより、受信者の警戒心を解き、状況を不自然に感じさせないようにしています。

このメールの構成は、**「興奮 → 懐疑心の停止 → 権威への信頼 → 緊急性/損失の恐怖 → 衝動的行動」**という一連の心理的プロセスをたどるように設計されています。これは、人間の基本的な感情を悪用して、論理的思考を乗っ取るための計算された罠なのです。

詐欺師の戦略:目的と手口の解明

これまでの分析を統合し、この詐欺の最終的な目的、詐欺師が計画しているであろう攻撃の具体的な手順、そして被害者が被る可能性のある損害の全容を明らかにします。

最終目的:前払い金詐欺 (Advance-Fee Fraud)

このメールの背後にある目的は、前払い金詐欺として知られる古典的な詐欺スキームを実行することです。

  • 定義:前払い金詐欺とは、被害者に対して、巨額の金銭(賞金、遺産、融資など)を受け取る権利があると信じ込ませ、その金銭を「解放」するために、税金、手数料、手続き費用といった名目で、比較的小額の金銭を前払いで支払わせる手口です。もちろん、約束された巨額の金銭は最初から存在せず、被害者は支払ったお金をすべて失うことになります 5
  • 本件への適用:このメールは、この詐欺スキームの第一段階にすぎません。受信者が返信すると、「法律代理人」を名乗る詐欺師が登場し、様々な口実で金銭の支払いを要求してきます。「カリフォルニアまで渡航する必要がある」が「代理人による配送も可能」という選択肢は、まさに手数料を請求するための伏線です。

攻撃のシナリオ:返信から金銭的被害まで

もし受信者がjacobslawservicescalifonia@protonmail.comに返信した場合、以下のようなシナリオが展開されると予測されます。

  1. 初期接触と関係構築(グルーミング):「ジェイコブス博士」を名乗る詐欺師は、祝福の言葉とともに返信し、信頼関係を築こうとします。身元確認と称して、被害者の個人情報を巧みに聞き出そうとするでしょう。
  2. 最初の手数料請求:まず、「法的手続き費用」「書類の公証費用」「口座開設手数料」など、もっともらしい理由で、比較的小額(数万円程度)の手数料が請求されます。
  3. 要求のエスカレーション:被害者が一度支払いに応じると、心理的に後に引けなくなります。詐欺師はこれを悪用し、「通関税」「国際送金税」「マネーロンダリング対策証明書の発行費用」など、次々と新たな「問題」をでっち上げ、より高額な支払いを要求してきます。
  4. 支払い方法の指定:詐欺師は、送金後の取り消しや追跡が不可能な、電信送金(Wire Transfer)、ギフトカード、暗号資産といった支払い方法を要求します。
  5. 終焉:このプロセスは、被害者が資金を使い果たすか、詐欺であることに気づくまで続きます。最終的に詐欺師は連絡を絶ち、姿を消します。

金銭以外:個人情報収集という二次的目的

この詐欺の目的は、金銭だけではありません。たとえ被害者が一円も支払わなかったとしても、詐欺師には二次的な目的があります。

  • 個人識別情報(PII)の収集:詐欺師とのやり取りの中で、被害者は「手続き」と称して、氏名、住所、生年月日、電話番号、パスポートのコピー、さらには銀行口座情報(送金先口座の設定と偽って)といった、機密性の高い個人識別情報(PII)を提供するよう求められます。
  • 収集された情報の悪用:これらの情報は、詐欺師にとって非常に価値があります。被害者本人になりすまして新たな詐欺を働くための身元詐称、ダークウェブでの情報売買、あるいは被害者やその所属企業に対して、より巧妙で個人に特化した標的型フィッシング攻撃を仕掛けるための材料として悪用される可能性があります。

この詐欺手口の巧妙さは、「サンクコスト(埋没費用)の誤謬」という人間の心理的傾向を悪用する点にあります。詐欺師の最初の狙いは、大金を得ることではなく、被害者に少額でも支払いをさせることで、心理的な「フック」をかけることです。一度でも投資をしてしまうと、被害者は「これまで支払った分を取り戻したい」という心理に駆られ、さらなる要求に応じやすくなります。このメールは、その心理的連鎖反応を引き起こすための、最初の引き金なのです。

結論と戦略的提言

本報告書は、提供されたメールが複数の技術的および状況的証拠に基づき、悪意のある前払い金詐欺であると結論付けます。ドメインのなりすまし、匿名連絡先の利用、公式手続きとの矛盾、そして受信者の心理を操るための欺瞞的な文面は、すべてこの結論を裏付けています。脅威は直接的な金銭的損失に留まらず、個人情報の窃取による二次被害にも及びます。

以下に、この脅威に対する即時的および長期的な対策を提言します。

最終判断と脅威の概要

結論:当該メールは、ドメインスプーフィング、アイデンティティの偽装、心理的操作を駆使した、前払い金詐欺を目的とする悪意のある通信であると断定します。この脅威は、金銭的損失とデータ盗難の両方のリスクを内包しています。

即時対応プロトコル(当該メールに対する措置)

  • 返信しない:いかなる内容であれ、返信は絶対にしないでください。返信することで、メールアドレスが有効であり、監視されていることを攻撃者に知らせることになり、将来の詐欺攻撃の標的リストに載る可能性があります。
  • クリックしない:メール本文中のいかなるリンクもクリックせず、添付ファイルも開かないでください。
  • ブロックおよび削除:メールクライアント上で、送信元アドレス (From)、返信先アドレス (Reply-To)、およびCcアドレスをすべてブロック設定してください。その後、メールを完全に削除してください。
  • 報告:メールクライアントの機能を使用し、このメールを「フィッシング」または「迷惑メール」として報告してください。これにより、プラットフォームのフィルター機能が学習し、将来同様の脅威をブロックする精度が向上します。

組織的な防御戦略(長期的セキュリティ対策)

  • 従業員向けセキュリティ意識向上トレーニングの実施:全従業員を対象に、フィッシングやソーシャルエンジニアリング攻撃を識別する方法に関する定期的かつ必須のトレーニングを実施することを強く推奨します。今回のメールを、現実世界の具体的なケーススタディとして活用することが効果的です。「うますぎる話は、まず間違いなく詐欺である」という原則を徹底してください 5
  • 技術的なメールセキュリティの強化
  • 厳格なDMARCポリシーの導入:貴社ドメイン(dream-soft.co.jp)に対しても、p=rejectポリシーを含むDMARCレコードを設定することを強く推奨します。これにより、攻撃者が今回suwada.co.jpを悪用したのと同じ手口で貴社ドメインをなりすますことを防ぎ、ブランドイメージと顧客を保護します。
  • メールゲートウェイ設定の見直し:現在使用しているメールセキュリティゲートウェイの設定を見直すことを推奨します。今回のメールのスパムスコアは21.4と非常に高いものでした。自動的に隔離または拒否するスコアの閾値をより低く設定することで、将来同様の脅威をより積極的に捕捉できる可能性があります。
  • 明確なインシデント報告手順の確立:従業員が不審なメールを発見した際に、非難されることを恐れずに、迅速かつ容易にITまたはセキュリティ部門に報告できる、明確な手順を確立してください。迅速な報告チャネルは、組織全体に広がる可能性のある攻撃を初期段階で食い止めるための鍵となります。

引用文献

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  2. About SUWADA, 9月 26, 2025にアクセス、 https://www.suwada.co.jp/en/about_en
  3. 172.245.244.0/22 CC-14 COLOCROSSING – Netblock Details – Whois request, 9月 26, 2025にアクセス、 https://whoisrequest.com/ip/AS36352/172.245.244.0/22
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  13. Fake Prize, Sweepstakes, and Lottery Scams | Consumer Advice, 9月 26, 2025にアクセス、 https://consumer.ftc.gov/fake-prize-sweepstakes-lottery-scams
  14. Nationwide Email Scam Targets Mega Millions® Players – Arizona Lottery, 9月 26, 2025にアクセス、 https://www.arizonalottery.com/news-media/fy21-press-releases/fy21-mega-millions-email-scam/
  15. Important Notice: Fraudulent Mississippi Lottery Winner Text Notifications, 9月 26, 2025にアクセス、 https://www.mslottery.com/important-notice-fraudulent-mississippi-lottery-winner-text-notifications/
  16. Contact Us – The Center at Sierra Health Foundation, 9月 26, 2025にアクセス、 https://www.shfcenter.org/contact/
  17. Sierra Health Foundation: Home, 9月 26, 2025にアクセス、 https://www.sierrahealth.org/
  18. How to Spot Lottery Scams Before They Cash In – BankProv, 9月 26, 2025にアクセス、 https://bankprov.com/how-to-spot-lottery-scams-before-they-cash-in/

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