2026年「アブソリュート・リゾルブ作戦」に関する包括的戦略分析報告書:地政学的・法学的・歴史的観点からの多層的検証

AI分析カテゴリー
  1. 1. 序論:西半球における「トランプ・コロラリー」の実践と戦略的転換点
  2. 2. ベネズエラの政治経済的変遷と国民感情の深層:チャベスからマドゥロへ
    1. 2.1 チャベス時代の遺産:「21世紀の社会主義」と制度的浸食
    2. 2.2 マドゥロ政権への移行と複合的危機の顕在化
    3. 2.3 国民感情の変容:絶望、離反、そして「解放」への複雑な眼差し
  3. 3. ウクライナ戦争におけるロシアへの抑止力と戦略的連鎖
    1. 3.1 「信頼できる保護者」としてのロシアの信認失墜
    2. 3.2 「勢力圏」論理の逆説的強化とプロパガンダ戦
    3. 3.3 エネルギー市場を通じた兵站への影響
  4. 4. 中国と台湾問題における中国への抑止力:恐怖と教訓
    1. 4.1 「斬首作戦(Decapitation Strike)」の現実化とPLAの動揺
    2. 4.2 台湾海峡への波及:模倣の誘惑と警戒
    3. 4.3 「債務の罠」の逆回転と経済的損失
  5. 5. 国際法や国際人道法の観点:法と力の相克
    1. 5.1 主権免除(Sovereign Immunity)の壁と米国の論理
    2. 5.2 武力行使の禁止と「ナルコテロリズム」という口実
    3. 5.3 「トランプ・コロラリー」による規範の書き換え
  6. 6. 世界各国の民衆の反応と認識すべき点:分断される世界
    1. 6.1 グローバル・サウスの反発:「帝国の帰還」への警戒
    2. 6.2 米国内と西側の温度差
    3. 6.3 認識すべき点:「斬首」は「解決」ではない
  7. 7. 過去1989年に起こったパナマの麻薬王拘束との対比:歴史は韻を踏むか
    1. 7.1 類似点:作戦のナラティブと手法
    2. 7.2 決定的な相違点:難易度と地政学的環境
    3. 7.3 分析:パナマ・モデルの限界
  8. 8. 結論:戦術的勝利と戦略的迷宮
      1. 引用文献

1. 序論:西半球における「トランプ・コロラリー」の実践と戦略的転換点

2026年1月3日未明、アメリカ合衆国軍によって実行された「アブソリュート・リゾルブ作戦(Operation Absolute Resolve)」は、ベネズエラボリバル共和国のニコラス・マドゥロ大統領およびシリア・フローレス第一夫人を「ナルコテロリズム(麻薬テロ)」の容疑で拘束し、米国本土へ移送するという、現代国際政治において極めて稀有かつ衝撃的な事態を引き起こした 1。ドナルド・トランプ大統領の指揮下で行われたこの電撃的な軍事介入は、単なる一国家指導者の排除にとどまらず、21世紀における国家主権の概念、大国間の勢力圏競争、そして国際法の規範力に対して、不可逆的な変容を迫る歴史的転換点(Inflection Point)として位置づけられる。

本報告書は、この事象を単発的な軍事作戦としてではなく、冷戦後の国際秩序が多極化の荒波の中で変容していく過程における象徴的事件として捉え、多角的な視点から深層分析を行うものである。具体的には、チャベス政権期から続くベネズエラ国内の構造的崩壊の軌跡、ウクライナ戦争や台湾海峡情勢に与える抑止力の及ぶ範囲、国際法上の正当性を巡る論争、そして1989年のパナマ侵攻との比較歴史分析を通じて、この作戦がグローバル・セキュリティに投げかける波紋を包括的に検証する。


2. ベネズエラの政治経済的変遷と国民感情の深層:チャベスからマドゥロへ

ベネズエラが直面している「人道的・経済的破局」は、マドゥロ政権下で突発的に発生した現象ではなく、ウゴ・チャベス政権時代(1999-2013)に埋め込まれた構造的欠陥が、原油価格の暴落とマドゥロ政権の統治能力欠如、そして国際制裁によって増幅され、制御不能なスパイラルへと陥った結果である。

2.1 チャベス時代の遺産:「21世紀の社会主義」と制度的浸食

1999年に政権を掌握したウゴ・チャベスは、豊富な石油収入(コモディティ・スーパーサイクル)を背景に、「21世紀の社会主義」を掲げ、貧困層への直接的な富の再分配を行った。このポピュリズム的手法は、当初は貧困率の劇的な低下をもたらし、国民の広範な熱狂的支持を獲得した 3。しかし、その裏で進行していたのは、ベネズエラ経済の「オランダ病」化と、民主主義的制度の組織的な破壊であった。

チャベス政権は、司法、選挙管理委員会(CNE)、そして国軍(FANB)といった本来中立であるべき国家機関を、政権与党であるベネズエラ統一社会党(PSUV)の支配下に組み込む「制度的捕獲(Institutional Capture)」を推し進めた 3。特に経済政策においては、外資企業の収用、厳格な価格統制、そして為替管理委員会(CADIVI)による為替統制が導入され、国内の生産基盤は著しく弱体化した。これらの政策は、高油価時代には隠蔽されていたものの、経済の多角化を阻害し、将来の破局への時限爆弾となっていたのである 3

また、チャベスは軍部内における「忠誠」を確保するため、軍のドクトリンを改変し、軍人を政府要職や国営企業の経営陣に登用することで、軍と党の癒着構造(Civil-Military Alliance)を固定化した。これが、後のマドゥロ政権下で経済が崩壊してもなお、軍が政権を見放さなかった構造的要因の原点である 5

2.2 マドゥロ政権への移行と複合的危機の顕在化

2013年のチャベス死去に伴い、後継者として指名されたニコラス・マドゥロが大統領に就任したが、彼にはチャベスのようなカリスマ性も、潤沢な石油収入も残されていなかった。2014年以降の原油価格急落は、ベネズエラ経済の脆弱性を白日の下に晒し、マドゥロ政権の無策と腐敗が状況を絶望的なものへと変えた。

表1:ベネズエラにおける社会経済指標の長期的推移と崩壊の軌跡

指標カテゴリ

チャベス政権全盛期 (2000年代後半)

マドゥロ政権移行期 (2013-2014)

崩壊と停滞期 (2018-2025)

備考・構造的要因

実質GDP規模

高成長を記録、南米屈指の富裕国へ

原油価格下落と共にマイナス成長へ転落

2013年比で約80%縮小 7

戦争状態にない国家としては近代史上最大の経済収縮。

インフレーション

20-30%台で推移(高水準だが制御下)

60%超へ加速、制御不能の兆し

ハイパーインフレ発生(最大100万%超) 9

財政赤字ファイナンスのための中央銀行による通貨乱発が主因。

原油生産量

約300万バレル/日

減少傾向開始

約70-100万バレル/日 11

PDVSA(国営石油会社)の技術者追放、投資不足、米国の制裁。

貧困率

大幅な改善(ミッションによる恩恵)

再び悪化傾向

国民の約80-90%が貧困状態 12

通貨価値の消滅と食糧不足による人道的危機。

対外債務

増加傾向(中国等からの借款)

支払い能力への懸念増大

デフォルト状態、対外債務約1,500億ドル 13

債務返済のために石油を現物支給する契約が国庫を圧迫。

マドゥロ政権下での経済運営は、合理的判断よりも「政権維持」が優先された。ハイパーインフレへの対応としてデノミネーションや仮想通貨「ペトロ」の導入を試みたが、根本的な財政規律の欠如により失敗に終わった。さらに、治安維持のために「コレクティーボ(Colectivos)」と呼ばれる武装市民組織を重用し、反対派の弾圧に利用したことで、法の支配は完全に崩壊した 7

2.3 国民感情の変容:絶望、離反、そして「解放」への複雑な眼差し

チャベス時代には熱狂的だった貧困層(チャビスモ)の支持も、マドゥロ時代には生活苦と共に急速に剥落した。2024年の大統領選挙においては、野党統一候補のエドムンド・ゴンサレスが実質的に67%以上の得票を得たと推計されており、マドゥロ政権の正統性は国民の大多数によって否定されていた 10。約770万人以上の国民が国外へ脱出するという、シリア難民危機に匹敵する規模のエクソダスは、国民が自国政府に「ノー」を突きつけた究極の形である 12

今回の米軍によるマドゥロ拘束に対し、国民感情は一様ではない。在外ディアスポラや強硬な反体制派の間では、長年の圧政からの「解放」として歓喜の声が上がっている 2。しかし、国内に残る国民の間には、米国の軍事介入に対する歴史的な警戒感、戦闘拡大への恐怖、そして「マドゥロがいなくなっても体制(System)は残るのではないか」という深い懐疑論が渦巻いている。事実、マドゥロ拘束後もデルシー・ロドリゲス副大統領が暫定大統領としての地位を主張し、軍部がそれを承認する動きを見せていることは、国民にとって「終わりのない悪夢」の継続を予感させるものである 16


3. ウクライナ戦争におけるロシアへの抑止力と戦略的連鎖

ベネズエラは、ロシアにとって西半球における「戦略的橋頭堡」であり、米国への対抗措置(Strategic Mirroring)を展開するための重要なパートナーであった。米軍によるマドゥロ拘束は、ロシアの対米戦略およびウクライナ戦争の遂行能力に対して、直接的かつ深刻なジレンマを突きつけている。

3.1 「信頼できる保護者」としてのロシアの信認失墜

ロシアはこれまで、シリアのアサド政権やベネズエラのマドゥロ政権に対し、軍事顧問団(ワグネル・グループを含む)の派遣や防空システムの供与、経済支援を通じて、政権維持を保証してきた 18。2024年から2025年にかけても、ロシア軍要員がベネズエラに展開していたとの情報がある中で、米軍が直接的な軍事行動に踏み切り、マドゥロの身柄を確保した事実は、ロシアの「拡大抑止」が西半球においては機能しないことを冷酷に証明した。

これは、ロシアに安全保障を依存している他の権威主義国家(ベラルーシ、シリア、アフリカ諸国の軍事政権など)に対し、「ワシントンが本気でハード・パワーを行使した際、モスクワは実質的な防衛を提供できない」という強力なシグナルを送ることになる。ウクライナ戦線にリソースを集中せざるを得ないロシアにとって、遠隔地の同盟国を守るための兵站能力(Logistical Projection)と政治的意志が欠如していることが露呈したのである 18

3.2 「勢力圏」論理の逆説的強化とプロパガンダ戦

一方で、米国の行動はロシアにとって、プロパガンダ上の「奇妙な勝利」をもたらす可能性がある。トランプ政権が「モンロー主義(トランプ・コロラリー)」を掲げ、自国の裏庭(ラテンアメリカ)における排他的支配権を行使したことは、プーチン大統領が主張する「大国の勢力圏(Spheres of Influence)」という概念を、皮肉にも米国自身が追認・実践した形となる 18

ロシアは今後、「米国がベネズエラで行った主権侵害こそが、ロシアがウクライナ(自国の歴史的勢力圏)で行っていることの正当性を証明している」というナラティブを強化するだろう。米国の行動を「帝国主義的侵略」と指弾することで、グローバル・サウスにおける反米感情を煽り、ロシアへの外交的支持を繋ぎ止めようとする戦術が予想される 18

3.3 エネルギー市場を通じた兵站への影響

ベネズエラが持つ世界最大の原油埋蔵量が、将来的に米国の管理下、あるいは西側企業の投資によって市場に再統合される可能性は、ロシアにとって長期的な経済的脅威となり得る。ウクライナ戦争の戦費を化石燃料輸出に依存するロシアにとって、原油価格の下落は致命的である。インド等の製油所が、ロシア産原油からベネズエラ産の重質油へと調達先を多角化させる動きが出れば、ロシアの「シャドー・フリート」による輸出網にも影響が及ぶ 21

しかし、ベネズエラの石油インフラは長年の投資不足により壊滅的な状態にあり、生産量が市場価格に影響を与えるレベルまで回復するには数年から10年単位の時間が必要である 11。したがって、短期的には地政学的リスクの上昇による原油価格の高止まりがロシアを利する可能性すらあるが、中長期的には「エネルギー・カード」としてのロシアの優位性を掘り崩す要因となる。


4. 中国と台湾問題における中国への抑止力:恐怖と教訓

中国にとって、ベネズエラは「一帯一路」構想の要衝であり、多額の融資を行ってきた経済的パートナーであると同時に、台湾問題における米国の介入能力を測るリトマス試験紙でもあった。今回のアブソリュート・リゾルブ作戦は、中国共産党(CCP)および人民解放軍(PLA)に対し、台湾有事シナリオにおける深刻な軍事的・心理的衝撃を与えている。

4.1 「斬首作戦(Decapitation Strike)」の現実化とPLAの動揺

PLAは長年、対米紛争シナリオにおいて、米軍が中国指導部や指揮統制中枢を直接攻撃する「斬首作戦」を実行する可能性を懸念してきた。2026年のベネズエラにおける作戦は、米軍がステルス爆撃機、特殊部隊(デルタフォース)、および現地ヒューミント(CIA)を高度に統合し、敵国の防空網を無力化した上で、国家元首の寝室まで到達して身柄を拘束するという、極めて高度な作戦能力を保持していることを実証した 24

内モンゴルの演習場に台湾総統府の実物大模型を建設し、武力による「斬首」の訓練を行っているPLAにとって 27、米軍がそれを遥かに上回る精度と規模で実践したことは、台湾有事の際の米軍介入が、単なる海空戦にとどまらず、北京の中枢に対する直接的な脅威となり得ることを突きつけた。これは、習近平指導部に対し、台湾への武力行使が自身の政治的生命、あるいは物理的生存に対するリスクを伴うものであると認識させる、強力な抑止シグナルとして機能する 28

4.2 台湾海峡への波及:模倣の誘惑と警戒

台湾国内では、この作戦が「米国の防衛コミットメントの強さ」を示すものとして歓迎される一方、中国がこの前例を悪用し、「米国がやったのだから我々も正当である」として、台湾指導部に対する斬首作戦や特殊部隊による急襲を正当化するリスクについても議論が沸騰している 29

実際にPLAは、2025年末の「Justice Mission 2025」演習において、封鎖作戦と並行して「精密打撃」や「指揮中枢の麻痺」をシミュレーションしており 26、今回の米軍の成功を受けて、同様のドクトリン(特殊部隊による統治機構の無力化)を加速させる可能性がある。これは台湾海峡の安定において、「全面侵攻」だけでなく、「グレーゾーン事態からの指導部排除」という新たな脅威シナリオへの対策を強いることになる。

4.3 「債務の罠」の逆回転と経済的損失

中国はベネズエラに対し、石油を担保とした約600億ドルの融資(オイル・フォー・ローン)を行っており、最大の債権国である 13。マドゥロ政権が崩壊し、親米政権あるいは米国の直接管理下に移行すれば、これらの債権回収は極めて困難になる。トランプ大統領が「米国の石油会社が参入する」と明言し、中国の既得権益を無視する姿勢を示していることは、中国の「一帯一路」投資にとって最大のリスクが「米国の軍事介入によるレジームチェンジ」であることを痛感させる事態である 32


5. 国際法や国際人道法の観点:法と力の相克

アブソリュート・リゾルブ作戦は、国際法学界において、主権免除、武力行使の正当性、そして法の支配のあり方を巡る激しい論争を引き起こしている。米国はこれを「法執行(Law Enforcement)」と枠付けしているが、国際法の観点からは極めて脆弱な法的根拠に基づいていると言わざるを得ない。

5.1 主権免除(Sovereign Immunity)の壁と米国の論理

国際慣習法上、現職の国家元首は「人的免除(immunity ratione personae)」を有し、外国の刑事管轄権から絶対的に免除されるというのが確立された原則である(ICJ「逮捕状事件」判決など) 34。この免除は、国家間の円滑な外交関係を維持するための機能的な要請に基づくものであり、元首が在任中である限り、いかなる重大犯罪の容疑であっても外国による逮捕・拘束は許されないとされる。

これに対し米国司法省は、マドゥロを「正当な大統領」として承認しておらず(2019年以降の不承認政策)、彼を「麻薬組織のボス」と見なすことで、パナマのノリエガ将軍の事例(US v. Noriega)と同様に訴追可能であるとする独自の法的構成をとっている 35。しかし、国際法的には、他国が承認しているか否かにかかわらず、実効支配している政府の長には免除が適用されるべきとの見解が有力であり、米国の論理は「自国が認めない指導者には国際法上の保護を与えない」という一方的な修正主義であるとの批判が強い 38

5.2 武力行使の禁止と「ナルコテロリズム」という口実

国連憲章第2条4項は、他国の領土保全や政治的独立に対する武力行使を原則として禁じている。例外は「自衛権(第51条)」と「安保理決議に基づく集団安全保障措置」のみである。今回の作戦において、ベネズエラから米国への直接的な「武力攻撃(Armed Attack)」が発生した事実はなく、麻薬密輸を「国家安全保障への脅威」と定義し、それを自衛権発動の根拠とすること(拡大自衛権)は、国際法上の正当性を著しく欠いている 34

米国は、マドゥロ政権を「カルテル・オブ・ザ・サンズ(Cartel of the Suns)」という犯罪組織と同一視し、対テロ戦争の論理を適用しようとしているが、主権国家の領土内に同意なく軍事侵攻し、政権中枢を攻撃することは、明白な侵略行為(Aggression)に該当する可能性が高い 41

5.3 「トランプ・コロラリー」による規範の書き換え

今回の作戦は、2025年の国家安全保障戦略で示唆された「トランプ・コロラリー」の実践であり、西半球における米国の優越性を再確認するために、国際法よりも国内法や国益を優先する姿勢を鮮明にしたものである 19。これは、国際秩序を「ルール・ベース」から、大国の意志が法に優越する「パワー・ベース」へと回帰させる動きであり、法の支配を掲げる西側諸国の道徳的優位性を損なうリスクがある。


6. 世界各国の民衆の反応と認識すべき点:分断される世界

6.1 グローバル・サウスの反発:「帝国の帰還」への警戒

ラテンアメリカ諸国やグローバル・サウスにおいては、今回の作戦に対する反発が広がっている。ブラジルのルラ大統領、コロンビアのペトロ大統領などは、マドゥロ政権とのイデオロギー的距離にかかわらず、米国の行動を「主権侵害」として強く非難している 44。これは、米国の国内法適用が国境を越えて及ぶこと(域外適用)への恐怖と、「明日は我が身」という小国の存立に関わる危機感の表れである。

特に、トランプ大統領が「米国がベネズエラを運営する」「石油会社が参入する」と公言したことは、グローバル・サウスの民衆にとって、今回の行動が「人権や民主主義のための介入」ではなく、「資源収奪のための帝国主義的侵略」であるという疑念を確信に変えるものであった 32

6.2 米国内と西側の温度差

米国内では、マイアミのリトル・ベネズエラなどの移民コミュニティが歓喜する一方、主要都市では反戦・反介入デモが発生し、世論は二分されている 48。西側同盟国は、マドゥロ政権の非道さを認めつつも、国際法を無視した軍事行動を支持することには慎重であり、公式な支持表明を控える国も多い。この温度差は、今後のベネズエラ統治支援において、米国が国際的な協力を取り付ける上での障害となるだろう 10

6.3 認識すべき点:「斬首」は「解決」ではない

世界が認識すべき最も重要な教訓は、独裁者の物理的排除が必ずしも民主的な体制移行を意味しないということである。マドゥロが拘束された後も、デルシー・ロドリゲス副大統領が暫定大統領を名乗り、軍部がそれを支持している現状 17 は、政権の構造(System)が温存されていることを示している。指導者の首をすげ替えても、その権力を支えてきた利権構造や軍部の腐敗が解消されなければ、ベネズエラは新たな内戦や無政府状態へと突入するリスクがある 16


7. 過去1989年に起こったパナマの麻薬王拘束との対比:歴史は韻を踏むか

アブソリュート・リゾルブ作戦は、1989年のパナマ侵攻(ジャスト・コーズ作戦)としばしば比較されるが、両者の間には決定的な戦略的・環境的相違が存在する。

7.1 類似点:作戦のナラティブと手法

  • 「ナルコ・ディクテーター」の排除: ノリエガ将軍とマドゥロ大統領は、共に米国の連邦大陪審によって麻薬密売容疑で起訴され、その身柄確保が軍事介入の主要な目的(または口実)とされた 40
  • 特殊部隊主導の電撃戦: 両作戦とも、デルタフォース等の特殊部隊が中枢に突入し、短時間で指導者を無力化・拘束することを狙った。
  • 司法プロセスへの接続: 拘束後、直ちに米国本土へ移送し、捕虜としてではなく刑事被告人として米国の法廷で裁くという「法執行の軍事化」が共通している 36

7.2 決定的な相違点:難易度と地政学的環境

表2:パナマ侵攻(1989)とベネズエラ作戦(2026)の比較分析

比較項目

パナマ侵攻 (Operation Just Cause)

ベネズエラ作戦 (Operation Absolute Resolve)

戦略的含意・分析

軍事的プレゼンス

米南方軍司令部や1万人規模の駐留軍が既に国内(運河地帯)に存在 52

駐留軍ゼロ。カリブ海からの遠征作戦。現地協力者はCIA支援の潜入者のみ 25

パナマは「国内」からの展開に近かったが、ベネズエラは純粋な敵地への侵攻であり、兵站・維持の難易度が桁違いに高い。

対象国の規模

人口約250万人、地形は比較的平坦

人口約2,800万人、国土はカリフォルニア州の2倍、複雑な山岳・ジャングル地帯 53

国土の広さと人口規模から、治安維持には数万〜十万人規模の地上軍が必要となるが、米国にその用意があるか不明。

敵対勢力の構造

パナマ国防軍 (PDF) は米軍が育成に関与しており、解体・武装解除が比較的容易だった

ベネズエラ国軍 (FANB) は思想的に洗脳され、利権で結びついている。さらに民兵 (Colectivos)、コロンビアゲリラ (ELN) が存在 53

正規軍が崩壊しても、非正規部隊による泥沼のゲリラ戦 (Insurgency) が発生するリスクが高い。

政権の連続性

エンサラ大統領ら、選挙で勝った正当な後継者が即座に就任し、国民も歓迎

デルシー・ロドリゲス副大統領が後継を主張し、軍も支持。野党の影響力は限定的 17

「斬首」に成功しても「レジームチェンジ」には至っていない。権力の空白ではなく、敵対的後継政権との対峙が続く。

国際環境

冷戦終結直後、ソ連崩壊間近で米国の覇権が絶頂期

多極化時代。中露の影響力が浸透し、ウクライナ・ガザ紛争と並行 20

国際的な孤立のリスクが高く、中露による介入や支援の可能性がある。

7.3 分析:パナマ・モデルの限界

パナマ侵攻が「成功」と見なされるのは、米軍が既に現地に駐留しており、圧倒的な制御力を持っていたという特殊事情によるものである。対して、ベネズエラにおいては、米軍の足場(Footprint)がなく、敵対勢力も複雑多岐にわたる。パナマの事例を「成功モデル」として安易に当てはめることは、作戦後の統治と安定化において致命的な誤算を招く可能性がある 52


8. 結論:戦術的勝利と戦略的迷宮

2026年1月3日の「アブソリュート・リゾルブ作戦」は、米軍の圧倒的な作戦遂行能力を見せつける戦術的勝利(Tactical Success)であったことは疑いない。しかし、その先に広がるのは、戦略的な不確実性とリスクに満ちた迷宮(Strategic Labyrinth)である。

  1. 抑止と挑発のパラドックス: ロシアや中国に対して、米軍の能力への恐怖を植え付けることで一定の抑止効果を果たした一方で、「力による現状変更」のハードルを下げ、台湾やウクライナにおける大国の暴走を誘発する「挑発」としての側面も否定できない。
  2. 国際秩序の液状化: トランプ政権による主権の軽視と一方的な法執行の拡大は、第二次世界大戦後に築かれた国際法の規範を融解させ、世界を「力が正義」の時代へと引き戻す触媒となるだろう。
  3. ベネズエラの明日: マドゥロという「象徴」が排除されても、ベネズエラが抱える構造的な病理――軍の腐敗、経済の崩壊、社会の分断――は治癒されていない。米国が明確な出口戦略と復興計画を持たずに介入を続ければ、ベネズエラは「解放された国」ではなく、果てしない内戦と混乱が続く「西半球のイラク」となる恐れがある。

歴史は、この作戦を「独裁者を裁いた正義の鉄槌」として記録するか、あるいは「新たな混乱の扉を開いたパンドラの箱」として記憶するか。その答えは、今後の米国の振る舞いと、ベネズエラ国民自身の選択にかかっている。

引用文献

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  3. Why did Venezuela’s economy collapse? – Economics Observatory, 1月 5, 2026にアクセス、 https://www.economicsobservatory.com/why-did-venezuelas-economy-collapse
  4. 12 Venezuela’s Autocratization, 1999–2021: Variations in Temporalities, Party Systems, and Institutional Controls – Oxford Academic, 1月 5, 2026にアクセス、 https://academic.oup.com/book/56192/chapter/443484701
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